フタフタサンマル。ここは、宿毛湾にある大衆酒場。
ここら辺では人気の店だ。今日も店内は客で大にぎわいである。
その中には、いつになく盛り上がってる、提督と金剛姉妹4人の笑い声があった。
提督は、プライベートで部下と飲む機会はほとんどない。
日頃は忙しなく雑務に追われ、夜遅く仕事が終わる。
しかし、金剛に何度も誘われ、たまには、と仕事を早く切り上げたのだ。
5人で囲む机には、店員が、せわしなく酒とつまみを持ってくる。
店員「焼き鳥盛り合わせ20人前と、唐揚げ、冷奴、塩キャベツ、お待たせしましたー。」
店員が、皿を置くと同時に、四方から手が伸びる。
飲んで食べて、あっという間に皿のものは平らげられ、グラスの中身は胃に収まる。
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こいつら、一体どんだけ飲むんだ…
飲みが始まってから既に2時間、提督は4姉妹に圧倒されていた。
いや、榛名はまだ普通だ。他の3人がオカシイ。
提督「き、霧島、酒強いなー。」
霧島「これくらい、たしなみ程度です。司令、グラスが空いてますよ。」
提督「たしなみというか…もう、一升瓶5本は空けたでしょ。。。」
比叡「私!注ぎます!!」
比叡が、提督の空いたグラスに酒を満たす。
うーん、士官学校時代、ずいぶんと先輩から鍛えられた私も、結構強い方だと思ってたんだが…
目の前で、次々と霧島に吸い込まれて行くアルコールを見ると、自信をなくす。
ええい、部下に負けてたまるか。
提督は、グラスの中身を一気に飲み干し、空になったグラスを机に置いた。
金剛「Oh、さすがテイトクぅー!ドンドン飲みましょうネー!!」
金剛は、提督のグラスに酒を入れ、自分のグラスにも手酌で注ぐ。
頬は酒が入ってうっすらと紅色。ご機嫌は最高だ。
そして、いつにも増して、さわがしい。
ふと、左に座っていた榛名に目をやると、うつらうつら、船を漕いでいる。
榛名の白い肌は真っ赤に染まって、目は寝ているのか起きているのか分からない。
提督「おーい、榛名、大丈夫か?」
榛名は提督の呼びかけに、少し遅れて「むくっ」と頭を起こして反応した。
榛名「…ふぁい!、ふぁるなは、大丈夫れす!」
だめだ、全然大丈夫じゃないれす。
榛名「…ちょっと、かじぇに、あたってきましゅ…」
榛名は、席を立ち上がり、フラフラと店の外へで出て行ってしまった。
全員酔っていた。すぐに戻ってくるだろうと気にも止めなかった。
しかし、15分立っても戻ってこない。
霧島が、心配そうな顔をして、腕時計に目をやる。
霧島「榛名、遅いですね。ちょっと、見てきます。」
提督「…私もついて行く。」
金剛「早く帰ってきて下さいネー。榛名の焼き鳥全部食べちゃうヨー!」
手を振ってはしゃぐ金剛と比叡を残し、提督と霧島は、榛名を探しに店の外に出た。
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店を出ると、すぐに聞き慣れた声が、提督の耳に届く。
榛名の声だ。
チンピラ「いい格好してるねネェちゃん。かわいいねー。」
榛名「や、やめてくだ、さい!」
急いで声のした裏路地に駆けつけると、榛名はガタイのいいチンピラにからまれていた。
榛名は酔っていて、力が出せない。
壁際に身を追いやられ、片手を掴まれている。
その榛名の姿を見た瞬間、一目散に駆け出したのは提督だった。
すぐに榛名をチンピラから離し、霧島に預けた。
提督「大丈夫か榛名。あー、私の連れなんでね。」
こういう手合いは、さっさと退散するのが吉。
提督も榛名に肩を貸し、目を合わせないように、早足でその場を去ろうとする3人。
しかし、チンピラは、スゥーッと回り込んでその行く手を塞いだ。
霧島「…まだなにか御用で。」
チンピラ「こっちは、そのネェちゃん介抱してやってたんだよ。」
霧島「…それで?」
チンピラ「なあ、ネェちゃん。お礼してもらおうじゃねえか!」
そう言いながら、チンピラは榛名に手を伸ばす。
霧島はとっさに反応し、チンピラの前に仁王立ちで立ちふさがった。
チンピラ「なんだこのメガネは?どけコラ!」
霧島「あ?何か言ったかハゲ!」
チンピラ「クソメガネに用はないんじゃぼけぇ!!!」
霧島「ヤンのかオラぁ!!!」
近い、2人とも顔が近い!
チンピラが飛ばす眼光に、霧島の切るメンチも、まるで負けてはいない。
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そのさなか、提督は、チンピラの動きをよく見ていた。
拳ダコができている。安定した下半身、まっすぐな正中線。
そして、背中にはっきりと浮かぶ打撃筋(ヒットマッスル)。
何かの武術経験者だ。しかも相当練度は高そうだ。
生身で殴り合いをすれば、霧島がただでは済まない。
榛名「霧島、榛名は大丈夫です。で、ですから、もう行きましょう?」
提督「霧島!艦装展開はできないんだぞ!」
一般人を相手に、私闘で艦装展開をして攻撃してはならない。
是非に関わらず、いかなる理由があろうとも重罪である。
霧島「…司令、分かっている…そう、艦装展開は使えない…」
霧島「…」
霧島「ならばっ!肉体言語にてつかまつる!!!」
チンピラ「じゃかぁしいわメガネ!」
え、肉体言語?何言っているの?
その瞬間、チンピラは右手で拳を作り、霧島の顔面にめがけ、正確に打ち抜いた。
速い。その動きは相当の手練れだ。
パシッ!
その拳が、霧島の顔面に届く寸前。
右手が伸びきる前に、霧島の左掌に阻まれた。
霧島「ふん!打撃系など花拳繍腿!
霧島は、素早く体を入れ替え、技を仕掛ける。
あ、あの技は、まずい!
提督「チ、チンピラさん、にっ、逃げてっ!全力で逃げてーー!!」
チンピラ「な、なんだ、この女、離せ!!」
霧島「キリシマ パロ・スペシャル!!!」
ま、まさか霧島が、あの、幻の必殺技を使えるとは…
もう、100万パワーのロボ超人と、キルゼムオールの魔法少女しか、使い手はいないと聞いていたが…
※大和田先生ごめんなさい
※どなたか、パロ・スペシャルをチンピラに極めているキリシマの絵描いてください
比叡「榛名、提督!大丈夫ですか!」
心配した金剛と比叡が駆けつけた時、チンピラは全身の関節という関節を、霧島の多彩な関節技(サブミッション)で極められ、動けなくなっていた。
比叡「ヒ、ヒェー!」
チンピラは、救急車のサイレン、比叡の叫びと共に姿を消した。
霧島「愚民めが。」
提督、金剛、比叡、榛名「…」
提督「…(あ、あのチンピラ、あとで元に戻る演習弾のほうが、まだよかったんじゃないか)…」
小声で、引きつった顔をしながら、金剛たちに耳打ちする提督。
霧島は、服の埃を払いながら、提督たちに優しく微笑んだ。
霧島「さて、飲み直しましょうか。」
提督「いやー、今日は遅いし、もうこの辺で…」
霧島「…何か、言いまして?」
霧島は、メガネを指で押さえながら睨んでいる。
そう、あの戦闘の余韻を残して…
提督、金剛、比叡、榛名「はいっ!提督|金剛|比叡|榛名は大丈夫です!!」
霧島「よろしい。」
その夜は、霧島姐さんに捕まって、誰も朝まで 帰れません 帰りませんでした。
霧島姐さんの愛読書 名著:大魔法峠
すでに中古しかないかも…