作戦会議室では、提督、霧島、金剛がテーブルを囲んでいた。
今日の空気は特に重い。
前回の第一次攻撃で、戦果があげられなかったからだ。
霧島「ポートワイン破壊作戦からの撤退を進言いたします。」
眼鏡に手をあて、霧島が厳しい口調で進める。
霧島「手元の報告書をご覧になってください。」
霧島「7回の進撃で、敵本陣までたどり着いたのは始めの2回。あとは、すべて、進軍中に大破退却。どう見ても編成に無理があります。」
金剛「私たちにまかしとけば良かったのにネー。テイトクぅー。ズンダ海峡みたいに簡単にクリアできたネー。」
霧島「資材の状況を鑑みた司令の決断だったのです。お姉様。しかし、資材も7回の撤退でこの有様です。」
霧島がキーボードを叩くと、スクリーンに資材の数値が映し出される。
目を背ける提督。
提督を冷たい目で凝視する霧島。
腹を抱えて笑い出す金剛。
金剛「ぶっ。テイトクー。これはムリねー。インポッシブル。」
霧島「笑い事じゃありませんわお姉様。とにかく、この資材に対応した編成では戦果をあげることはほぼ不可能です。司令、撤退のご決断を。本部には私から通知いたします。」
しかし、提督はすぐに反論した。
提督「待ってくれ!」
霧島「待てません。司令もこれらのデータを見れば突破できないことはお分かりのはずです。」
提督「ほらさ、やっぱワイン飲みたいじゃん。。。っていうか他の鎮守府のやつらが強襲するからいけなんだって。確かに本部からの指令書には強襲って書いてあったけどさ。」
そう言うと、提督はあたふたしながら、会議室にあるテレビの電源を入れる。
そこには、最近ニュースで話題になっている、深海にあるワイン店の店主の姿が映し出された。
提督「ほら、なんていうか、うちらはちゃんとお金払ってワイン買おうとしているのに、港湾棲姫ちゃんが他の鎮守府の奴らと勘違いしてさ。店の前に戦艦ってやり過ぎだよね。」
それを聞いた霧島は下を向き、提督と目を合わせず、低い声でゆっくりと話しだす。
霧島「そ れ で?」
提督「え、あ、なんていうか、こっちも誠意を見せれば、店主もわかってくれるかなー。なんて思ったりして。」
金剛「ハハハー。ソウネー。そうだよ分かってくれるよー。さすがテイトクー。」
バーン!!
霧島が机を力いっぱい叩いた。
振り下ろした手は机をゆがませ、大きな音が部屋中に鳴り響く。
霧島「話をそらさないでください!!」
霧島「戦力、資材、そして作戦終了までの時間、データから無理だと申し上げてるんです!ワインを買うとか買わないとか関係ないだろオラァ!」
部屋中に響く霧島の怒声。
凍り付く空気。提督と金剛はたじろいで固まった。
霧島「はっ、艦隊の頭脳としたことが少し取り乱しましたわ。」
提督「(…それ、前もやったよね。しらふでもやるんだね。)」
霧島は落ち着きを取り戻し話を続ける。
霧島「とにかく。本作戦からは撤退。本時刻をもって作戦を終了することを本部に伝えます。」
霧島「よろしいですね。」
霧島は顔を動かさず、鋭い視線だけを提督に向けた。
もう、有無を言わせない顔つきだった。
提督「ま、まってくれ霧島。」
霧島「司令のお考えが分かりません。何度も申し上げますが、データから突破は無理と判断します。」
霧島はあきれた顔で答える。
霧島「この状況で作戦を続行するのであれば、その明確な理由と、戦略をご呈示ください。そうでなければ納得できません。」
金剛「いいじゃん、やるだけやってみればサー。」
霧島「お姉様は黙っててください!」
霧島の言うことはもっともである。このまま作戦を続行するのは、誰の目から見ても明らかに無理があった。
霧島は、右手の平を左胸にあて、下から覗き込むように提督の顔を伺った。
霧島「もっとも、司令のご命令であれば私達は従います。ですが、納得できる理由をお聞かせください。」
霧島は真剣な眼差しで監督の答えを待つ。
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提督「天に吹く風は、気持ちのいいものだろうなぁ」
脈絡のない発言に、目を丸くする霧島。
霧島「は?おっしゃっていることが、よく分からないのですが。」
提督「風だよ風。うちにも是非吹いて欲しいものだ。」
霧島「…」
窓の外を見ながら真剣な顔をする提督。
それを見て、霧島も考えだす。
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霧島「…司令。本部からの報酬。ですね?」
気がついたように、霧島は顔をあげながら答えた。
提督「…そうだ霧島。本作戦を遂行できれば、本部からの報酬として天津風が配備される。彼女は優秀な駆逐艦だ。本鎮守府には必ず迎え入れたい。」
霧島「しかし、いくら優秀とはいえ…」
提督「お世辞にも我が艦隊の練度は高くない。優秀な駆逐艦はどうあっても獲得すべきだ。」
霧島「た、確かにデータを見る限り、駆逐艦としては優秀です。ですが…」
手元のタブレットを見て考え込む霧島。
そこに金剛が横から画面を覗き込む。
金剛「Oh!とってもプリティ♡提督好みの艦娘デスネー。妹にしたいネー」
それを聞いて、怒りで赤くなる霧島の顔。
霧島の顔をみて青ざめる提督。
霧島「司令は、このような娘がお好みで。」
提督「いや、ちがっ、なにを言って、ほら、あれだ、戦力としてだよ。金剛もへんなこと言わないでよ。」
金剛「鼻の下伸びてるヨ。テートクぅ。」
霧島「司令?見損ないましたわ。そのような理由で、本鎮守府の部隊を危険に晒し、なおかつ資材を枯渇しようとなど納得できません!」
提督「い、いや、そうじゃなくって…」
霧島「まだなにか。作戦は終了で よ ろ し い ですね。」
霧島は提督を睨みつけた。
バン!
急に作戦会議室のドアが開いた。
島風「島風が、たのんだん、だよ。」
会議室に急に現れた島風が、泣きそうな顔で話しだす。
今にもあふれそうな涙を、両目にためて。
霧島「島風さん。作戦会議中です。話はあとで聞きますので退室なさい。」
島風「だから、島風がたのんだんだよ。提督に。
指令書、勝手に、見ちゃったんだよ、島風が。
この娘知ってるっていったら。
そしたら提督がっ。
必ず連れてきてくれるってっ。お友達連れてきてくれるってっ。
だから、お願いって。
たのんだんだよ。島風が たのんだん だよ。わーん。」
大粒の涙が、島風の両目からあふれ出し、どめどなく頬をつたう。
その場に立ち尽くし、大きな声で島風は泣き出した。
霧島は、腰をかがみ、泣き崩れる島風を優しく抱きしめた。
霧島「…始めから、言ってくだされば良かったのに。」
提督「いや…私は優秀な戦力を獲得したいだけだ。」
島風を金剛に預け、提督のほうを向く霧島。
真剣な眼差し、しかし、どこか晴れやかな顔をしながら、彼女は答えた。
ご命令を、司令。