ヒトサンゴーマル。風一つない、穏やかな海。
空からは、午後の日差しが降り注ぎ、平和な海そのものであった。
その海には、80,000tクラスの巨大な空母、そして8,000tクラスの駆逐艦が3隻、隊列をなして展開していた。
巨大な空母は、まるで自走する一つの島である。
比類なきスケール、存在感。その姿は、見る者を圧倒する。
提督「あー、もう。なんでこうなっちゃたかなー…」
提督は、不満そうな顔をしながらブツブツと話す。
対深海棲艦部隊への、海外一般の海軍部隊からの視察。ただそれだけだったはずなのに。
ちょっとした行き違いから、この圧倒的な、一般の海軍部隊と演習をすることになってしまった。
しかも、発端の木曾くんは、殺る気たっぷりである。
提督「おかしい、この視察は、ヒトゴーマルマルには終わっていて、今日はゆっくりしている予定だったのに。あれ?どこからこうなったんだっけ…そう、これはきっと夢…」
北上「まぁなんて言うの?こんなこともあるよね…」
北上は一応慰めているつもりだろうか。
その言葉は、提督を現実の世界に引き戻した。
これは現実だ。提督は、さらに泣きそうになる。
提督「もう、こうなったら仕方ないけど、たのむ!!やりすぎないでくれよー。」
木曾「お前に最高の勝利を与えてやる!」
提督「…木曾くん、本当にやめようね。ね。万が一、視察の部隊破壊しちゃったら、始末書。わかる?そんでね首だからね。」
木曾「不安なのか?あの無能な司令のニヤケたつらを吹き飛ばしてくるから安心しろ。」
提督「…いやいや、そうじゃないから…ま、まあ、演習弾を使ってれば間違いは起きないからそこは大丈夫か…な..ははっ…」
演習弾とは、対深海棲艦軍本部が開発した、特殊な霊力を込めた砲弾である。
着弾する前に、周囲に霊力術式を展開し炸裂する。
その後、一定時間(30分程度)経つと、その砲弾によって破壊された物質は、展開された霊力術式により、破壊前の状態に戻るのである。
提督「全員、艦装展開始め!」
提督の命令で、各自が艦装を展開する。
体が霊力で発光すると同時に、全身が艦装で包まれた。
各艦の艦装展開を確認した提督は、学校の先生のように手を「パンパン」と叩いて艦娘たちを振り向かせた。
提督「ちゃんと、演習弾だよね。はい、今から全員チェックするから。ヤバい、これ実弾だと本当ヤバいからね。戦艦レ級よりヤバいから。」
整列しているのは、木曾、電、北上、金剛の4人である。
片っ端から、装填されている砲弾を、ぶつぶつ言いながらチェックする提督。
金剛「Hey! テイトクぅー。触ってもイイけどサー、時間と場所をわきまえなヨー!」
狼狽しながら砲弾をチェックする提督を、からかう金剛。
それに答える余裕は、今の提督にはまるでなかった。
提督「よ、よし、全員演習弾だ。これで最悪の事態はないか…な…もういや…」
提督の おさわり チェックを終えた4人は水上に展開し、提督の指示を待つ。
提督は、泣きそうな顔でインカムを通じ、4人に指示を出した。
提督「…何度も言うけど、やりすぎないでね…」
木曾「分かってるよ。こっちからは手は出さない。心配すんな。」
大丈夫だ、演習弾だったし、問題は無いはずだ。
提督は、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
そして、はっきりと、凛とした声で命令を出した。
提督「全機、旗艦木曾に続き、単縦で各艦距離500を取り、海外軍演習部隊東7,000に展開せよ。」
提督「抜錨!」
木曾、電、北上、金剛「了解!抜錨します!」
木曾を旗艦とした、電、北上、金剛の隊列は、演習のポイントに航行を開始した。
ヒトサンゴーサン、まだ、風一つない、穏やかな海であった。