木曾を旗艦とした、電、北上、金剛は、演習のポイントへ向かって航行していた。
金剛「Oh!私のティータイムが…提督にはあとで、絶対に埋め合わせしてもらいマース…」
ぶつぶつと文句をいいながら進む金剛。そのインカムに、通信が入った。
「お姉様、聞こえますか?」
航行中は風を切るため、インカムの音声も聞き取りにくい。
金剛は、右手でインカムを押さえながら返答した。
金剛「OK、聞こえマース。その声は…」
声の主は霧島であった。
金剛「今日は Holyday だったはずデース。」
霧島「司令からご連絡があって、急遽、出向いたんです。」
霧島は、泣きそうな提督から電話で連絡を受け、休暇中であるにも関わらず鎮守府へ駆けつけたのである。
提督「た、助かったよー、霧島。」
霧島「経緯が全く理解できませんが、仕方がありません。演習弾を使用していれば問題は起きないはずですし、無事に終わるよう尽力します。」
霧島を、すがるような目で見つめる提督。
深いため息をついた霧島に、海外軍司令から、入電の信号が入った。
霧島「海外軍司令殿より入電です。」
提督「つないでくれ。」
霧島「回線、開きます。」
回線がつながり、3者が通話できる状態になった。
海外軍司令「早速はじめましょう。よろしく オネギ します。」
提督「開始の合図を致します。回線はそのままでお願いします。霧島、頼む。」
霧島「それでは、海外軍部隊と対深海棲艦部隊の演習を始めます。両部隊、攻撃、始めっ!!!」
海外軍司令「…本当の力を見せてクダサイ。マジックじゃなくて オネギ します。」
回線は、向こうから切断された。
提督と霧島は、深いため息をついた。
. . . . .
. . .
.
一方、演習のポイントに到着した木曾の部隊。
木曾は、インカムで演習開始の合図を聞いたあと、提督からの指示を受けていた。
提督「木曾くん、くれぐれーもやりすぎないように。陣形は単縦、全艦距離…」
木曾は、提督との通話を切った。
提督「…あ、あれ、木曾くん?」
提督の頭に嫌な予感がよぎる。
もちろん、通常の戦闘では、提督の命令を無視するような者ではない。
むしろ、誰よりも忠実に命令を遂行し、確実な戦果を上げてくるのが木曾であった。
しかし、演習では基本的に好きにやらせていた。
木曾も、演習弾を使用した戦闘では、問題が起きないことを理解している。
まずい、これはまずい。
冷や汗をたらしながら、インカムに話し続ける提督を気にする事もなく、木曾は北上に指示を出した。
木曾「北上、目標は、敵3番艦。雷撃準備開始。」
北上「了解!」
艦娘の戦闘は、通常の戦闘形態とは異なり、戦闘開始後の詳細な指示は、旗艦に一任されている。
なぜなら、艦娘が提督を背負っていく訳にもいかず、提督自身が、戦地に赴く事ができないからである。
また、艦娘の戦闘は、通常のそれとはまるで異なる。
提督は大枠の指示のみを出し、あとは旗艦の指示で、部隊が適宜動けるように訓練されている。
北上は、木曾の指示を受け、魚雷発射の体制を取った。
木曾「これは演習だ。北上、暴れようぜ。」
北上「ギッタギッタにしてあげましょうかね!さてさて、20射線の酸素魚雷、2回いきますよー。」
木曾「雷撃、撃てーーーっ!」
木曾の号令と共に、北上の魚雷管が火を噴いた。
<英語>
海外軍観測員「敵艦、何か射出しました。小さいですが…魚雷です。」
海外軍司令「ふん、放っておけ。そもそも、ミニチュアがここまで届くのかねぇ。」
海外軍司令は、周りにいる下士官と笑い出した。
周りの兵士も、余裕のある表情で気にも留めていない。
. . . . .
. . .
.
しかし、観測を続けている兵士の顔色が険しくなった。
<英語>
海外軍観測員「敵弾、3番艦に向かっています。着弾まで 40, 39, 38…」
海外軍司令「なんだと?」
北上の放った魚雷は、しっかりと目標に向かっていた。
<英語>
海外軍司令「ピンを打って再度確認!」
海外軍観測員「3番艦に向かっています。31, 30, 29 …」
艦娘が装備する艦装から放たれた砲弾は、霊力術式によってその大きさを増し、通常の砲弾の大きさに変化する。
つまり、その能力、破壊力は、実弾となんら変わりはないのである。
しかし、海外軍司令は、そのことにまだ気づいていない。
<英語>
海外軍観測員「18, 17, 16…」
海外軍隊員「司令、このままでは着弾します。回避を。」
海外軍司令「…まあ、当たっても所詮はミニチュアの豆鉄砲だ。少しくらいは当てさせてやれ。観測は続けておけ。」
海外軍観測員「了解。」
海外軍司令はいまだ余裕であった。
海外軍観測員「5, 4, 3, 2, 1 着弾!」
観測員の発声とともに、轟音が海を切り裂いた。
<英語>
海外軍司令「どういうことだ!何が起きた!確認!!」
海外軍観測員「3番艦機関部に被弾。大破。航行不能です!」
海外軍司令「なんだと!」
海外軍司令が、窓から3番艦の方へ目を向ける。
そこには、北上の雷撃を受け、火柱があがる自軍の艦艇が映った。
北上「あれー、回避しないの?ほとんど当たっちゃったよー。ま、いっか。」
海外軍司令はここで初めて理解した。
あの時、兵装倉庫で、あの頼りなさそうな提督が説明していた事を。
海外軍司令の目つきが変わった。
<英語>
海外軍司令「人的被害の状況を確認!」
海外軍隊員「重傷者なし。軽傷者18名。全員動けます。」
海外軍司令「待機している救助艇は3番艦に向かえ。3番艦乗組員は、全員、救助艇へ移動。演習海域から離脱せよ。」
海外軍隊員「了解!」
敵艦への着弾を確認した木曾は、海外軍司令へ回線をつないだ。
海外軍司令「…なんデショウカ…」
木曾「どうした。豆鉄砲は痛かったか。」
海外軍司令「…後で イタイメ に合いますよ…」
海外軍司令は、すぐに考えを切り替えた。
艦娘、あれは、原理は分からないが、確かに我々の艦艇に匹敵する能力を持っている。
そして、相手の能力を計れなかったのは、自分のミスだ。
しかし、あのマント野郎に、舐められたまま終わってたまるか。
海外軍司令は、すぐに木曾との回線を切り、大声で指示を出した。
<英語>
海外軍司令「2番艦、演習弾装填!」
海外軍隊員「2番艦、演習弾装填完了!」
海外軍司令「2番艦、全砲門、開け!撃っーーー!」
海外軍司令の号令とともに、2番艦から砲弾が射出された。
その砲弾は、目標に向かって一斉に襲いかかった。